猫は人のまねができる?「Do as I Do」研究の結果

この記事の要点
- よく社会化された1頭の猫が、同じ物体に対する2種類の人の動作を区別して再現できることが報告されました。
- この研究は単一個体の事例研究であり、猫一般に模倣能力があると結論するには追試が必要です。
- 模倣には、他者の身体の動きを自分の身体に翻訳する仕組みが必要とされます。
- 家庭の猫が飼い主の行動をまねて見えるとき、多くは模倣ではなく試行錯誤による学習で説明できます。
先住猫の後についてトイレを覚えた、飼い主が引き戸を開けるのを見て自分でも開けるようになった。猫が「まねをする」という話はよく聞きます。しかし科学的に模倣を示すのは、想像よりずっと難しいことです。
模倣を証明する難しさ
他個体と同じ行動が現れても、それが模倣とは限りません。同じ場所に注意が向いただけかもしれない(局所強調)、同じ道具の使い方を独自に発見したのかもしれない(刺激強調)。真の模倣を示すには、他者の身体の動きを自分の身体に対応づけていることを示す必要があります。
この難問に対処する方法として、犬の研究で「Do as I Do」法が開発されました。まず「まねをしろ」という合図を訓練し、その後に新しい動作を見せて、対応する動作が出るかを調べます。
猫での報告
Fugazzaほか(2020)は、この手法を家庭猫に適用しました。対象は、飼い主が日常的に訓練を行っていた1頭の猫です。人が示した動作の後に「まねをしろ」の合図を出し、猫の反応を記録しました。
検証には、同じ物体に対して2通りの異なる動作を示す「二動作手続き」が使われました。人が箱を手で触る動作を示した試行と、箱に顔を近づける動作を示した試行で、猫がそれぞれ対応する動作(前足で触る/顔を寄せる)を再現するかを見ます。物体そのものへの注意が高まっただけ(刺激強調)では説明できない設計です。
猫は、示された2つの動作を区別して再現しました。研究者は、Do as I Do 法が猫にも適用可能であり、行動の類似性を認識する能力が猫の社会的認知の範囲に含まれる可能性を示す初めての証拠だと述べています。
結果をどう読むか
この報告は「猫にも模倣能力がある可能性」を示す重要な一歩ですが、限界もはっきりしています。対象は1頭のみで、しかも普段から訓練を受けている特殊な個体です。一般の家庭猫が同じことをできるかは分かりません。
研究者自身も、追試の必要性を明示しています。動物の認知研究では、単一事例が後の大規模研究で再現されないことがしばしばあります。慎重に読むべき結果です。
日常で見える「まね」の正体
家庭で観察される「まね」の多くは、より単純な仕組みで説明できます。飼い主が開けている引き戸には、猫の関心が向きやすくなります(局所強調)。そこで前足を掛ける動作を繰り返すうちに、たまたま開く。開けば良いことが起きるので、その動作が定着する。これは効果の法則による学習です(猫の問題解決能力)。
先住猫のトイレを子猫が使うようになるのも、同じ場所に誘導されている効果が大きいと考えられます。ただし、これらの仕組みも十分に有効な学習です。
訓練に活かすなら
猫に新しい行動を教えるときは、模倣に頼るより報酬による強化が確実です。クリッカーを使った訓練が保護施設の猫で効果を示した報告もあります(猫はしつけを覚える?)。
猫の学習能力全般については猫のIQは測れる?にまとめています。
人間の学習と模倣
人間は模倣に極端に強い動物で、これが文化の蓄積を可能にしました。一方でIQ検査が測るのは、模倣ではなく初見の課題に規則を見つける力です(流動性知能と結晶性知能)。ねこIQの無料IQテストは、その流動性の側面を20問・約10分で測ります。結果は自己理解のための推定値であり、公式な知能検査の代わりではありません。
よくある質問
- 猫は人のまねをしますか?
Do as I Do法で訓練された1頭の猫が、人が示した動作に対応する動作を再現できたという報告があります。ただし単一個体の事例であり、猫一般の能力としては確立していません。
- 猫がドアを開けるのはまねですか?
多くの場合は模倣ではありません。偶然うまくいった動作が結果によって強化され、繰り返されるうちに洗練されたものと考えられます。
- 先住猫のまねを子猫がするのは本当ですか?
トイレの使い方など、先住猫の行動が学習の手掛かりになる場面はあります。ただし厳密な模倣か、単に同じ場所に誘導されているだけかは区別が必要です。
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編集・免責事項
本記事はねこIQ編集部が、動物認知・行動・獣医学に関する査読研究を参照して執筆・編集しています。研究で直接測定した結果と解釈を分け、対象数、課題との相性、参加意欲などの限界を可能な範囲で明示します。
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